年老いた猫に寄り添い手を握る若い猫のイラスト

「何度言っても伝わらない」「否定するとかえって怒る」——認知症の親御さんへの接し方に、毎日どう向き合えばいいか悩んでいませんか。

答えを先にお伝えします。認知症の人への接し方は、この3つが基本です。否定しない。正そうとしない。急がせない。

この3つを知っているだけで、毎日のやりとりがぐっと楽になります。私は訪問介護と老人保健施設で、たくさんの認知症の方と関わってきました。この記事では、その3原則の意味と、家庭でよくある3つの場面での具体的な声かけを、現場の経験からお伝えします。

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なぜ「否定してはいけない」のか

認知症になると、新しい出来事の記憶が残りにくくなります。でも、「そのとき感じた気持ち」は残ると言われています。

たとえば「さっきご飯を食べたでしょ」と否定されたとき。本人は「ご飯を食べた」という事実は覚えていなくても、「なんだか責められた」「嫌な気持ちになった」という感情だけが残ります。理由はわからないのに不安と不快感だけが残る——これが、混乱や怒りにつながっていきます。

⚠️
「本人にとっては、それが事実」 認知症の人が言うことは、周りから見ると間違っていても、本人の中では本当に起きていることです。だから「違うよ」と正すのは、相手の現実を真っ向から否定することになります。まずは「本人にはそう見えている」と受け止めるところから始まります。

場面別・こう言いかえる——よくある3つのケース

言葉では「否定しない」とわかっていても、いざその場面になると難しいものです。家庭でとくに多い3つの場面を、NGな対応とOKな対応で並べてみます。

ケース1:同じことを何度も聞いてくる

「今日は何曜日?」「病院は何時?」——5分おきに同じ質問。ついため息が出てしまう場面です。

  • NG:「さっきも言ったでしょ」「何回聞くの」
  • OK:「金曜日だよ」と、初めて聞かれたように答える

本人にとっては、毎回が「初めての質問」です。何度も聞くのは、それだけ不安だから。同じ答えでも、落ち着いた声で返してあげると、それだけで安心します。「メモに書いて見える場所に貼る」のも、質問そのものを減らす助けになります。

ケース2:「財布を盗られた」と言う(物盗られ妄想)

自分でしまい忘れただけなのに、「あなたが盗った」と責められる。介護している家族が、いちばん傷つく場面かもしれません。

  • NG:「盗ってないよ!」「自分で置き忘れたんでしょ」と言い返す
  • OK:「それは困ったね、一緒に探そう」と、まず気持ちに寄り添う

「盗られた」の裏にあるのは、大事なものが見つからない不安です。否定して言い合いになると、余計にこじれます。一緒に探して、できれば本人自身が見つけられるように、そっと誘導すると角が立ちません。身近な人ほど疑われやすいのは、それだけ頼りにしている証拠——そう思うと、少し気持ちが楽になります。

ケース3:夕方になると「家に帰る」と言う(帰宅願望)

自分の家にいるのに、夕方になると「そろそろ帰らないと」とそわそわ。施設でも在宅でも、とてもよくある場面です。

  • NG:「ここが家でしょ」「どこにも行けないよ」と押さえ込む
  • OK:「もう暗いから、お茶でも飲んでから行こうか」と受け止めて、気持ちをそらす

「帰りたい」と言うとき、本人が帰りたいのは今の家ではなく、安心できた昔の場所や時間だったりします。無理に止めず、まず「そうだね」と受け止める。お茶を出す、好きな話をするなど、いったん気持ちを別のことへ向けると、自然と落ち着くことが多いです。

いちばんつらいとき——自分の顔を、忘れられる

認知症の進行にともなって、家族の顔がわからなくなることがあります。自分の子どもなのに他人だと思われたり、亡くなった親や兄弟と間違えられたり。長年連れ添った相手に「あなた誰?」と言われる——これは、介護のなかでいちばんつらい瞬間かもしれません。

それでも、ここでも基本は同じです。否定しないこと。「私だよ、わからないの?」と問い詰めても、本人を追いつめるだけです。相手が見ている世界に、そっと合わせてあげてください。

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忘れられても、つながりは消えていない 名前や関係を忘れても、「この人といると安心する」という感覚は残ると言われています。あなたのことを思い出せなくても、あなたが注いできた時間が消えるわけではありません。つらいですが、そう思って、どうか自分を責めないでください。

「あれ?なんか変かも」に、早めに気づく

認知症は、ある日突然なるものではありません。少しずつ、少しずつ進んでいきます。だからこそ、いちばん身近な家族が「あれ?なんかおかしいかも」と気づけることが、とても大切です。

同じ話を繰り返す、日付があいまいになる、片づけができなくなる——そんな小さな変化に気づいたら、早めに相談先を探しておくと安心です。かかりつけ医、もの忘れ外来、地域包括支援センター。早く動くほど、本人にも家族にも、できる準備が増えます。

気づきのサインについては、こちらの記事でくわしく書いています。→ 親の認知症、早めに気づくためのサインと対応

現場で学んだ、いちばん大事なこと

私は老健で働いていたころ、ユニットリーダー研修を受けました。そこで教わったユニットケアの理念が、「その人らしい暮らしの継続」です。認知症の人への接し方も、根っこはここにあると思っています。

認知症の人の行動には、周りから見ると不可解でも、本人なりの理由が必ずあります。そわそわするのは何かが不安だから。怒るのは、プライドが傷ついたから。「困った行動」を止めようとするより、「なぜそうしているんだろう」と理由を探すほうが、結局は早く落ち着きます。

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プライドは、最後まで残る 記憶があいまいになっても、「子ども扱いされた」「バカにされた」という感覚は残ります。できないことを責めず、できることは本人にやってもらう。ひとりの大人として敬意をもって接する——これが、どんなテクニックよりも効きます。
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いちばん大切なのは、介護する人が倒れないこと

ここまで接し方を書いてきましたが、最後に、いちばん伝えたいことがあります。

どんなに上手に接しても、24時間ずっと穏やかに対応するのは無理です。イライラして当たり前。それは、あなたが悪いのではありません。認知症の介護は、ひとりで抱えるものではないんです。

デイサービスやショートステイを使って、離れる時間をつくってください。ケアマネジャーや地域包括支援センターに、遠慮なく弱音を吐いてください。介護する人が笑顔でいられることが、結局は本人にとっても、いちばんの安心になります。

まとめ

この記事のポイント
  • 接し方の基本は「否定しない・正そうとしない・急がせない」
  • 出来事は忘れても、そのとき感じた気持ちは残る。だから否定は逆効果
  • 「困った行動」には本人なりの理由がある。止めるより理由を探す
  • 顔がわからなくなっても否定しない。つながりは消えていない
  • 認知症は突然ではない。身近な家族が早めに気づき、相談先を探しておく
  • プライドを傷つけない。ひとりの大人として敬意をもって接する
  • 介護する人が倒れないことが、いちばん大切。ひとりで抱えない

今日から全部できなくて大丈夫です。「否定しない」の一つだけでも意識すると、きっと変化を感じられます。無理のない範囲で、試してみてください。